おすすめ小説『私の中にいる』黒澤 いづみ(著)

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著者:黒澤 いづみ

福岡県出身。本作で第57回メフィスト賞を受賞し、デビュー。

引用元:講談社BOOK倶楽部

あらすじ

母子二人暮らしのアパートで発見された、女性の変死体。亡くなっていたのは母親、そして殺してしまったのは、日々虐待を受けていた小学生の娘だった。事件以降、“人”が変わったような言動をとりはじめる少女。何かが、おかしい。原因は過度の精神負荷による、解離性同一性障害……多重人格のせいなのか。では――「私の中にいる」のは、誰? 『人間に向いてない』で注目の著者が、読者に突きつける社会の底。

引用元:Amazon

感想

 『人間に向いてない』ですっかり黒澤いづみ作品に魅了され、KindleUnlimited読み放題対象作品のこちらも続けて読んだ。
 虐待を受けていた少女は母親を殺し、施設に入れられ、そこでまた酷い目に遭う。次に少女が預けられたのは、老夫婦が住み込みで児童を支援していく家庭的な寮。そこは少女の言動を否定することは一切せずに「自分が何をしたいか?」考えることを求める。ずっと他人からの強制や抑圧に反発することだけを考えていた少女は、戸惑いを隠せない。そして心理士の齋藤と出会い。この齋藤とのやりとりは、どの場面もとても興味深かった。少女の未熟さを的確に指摘し、すぐに感情的になる彼女に冷静に対処していく。
 過酷な虐待の連鎖に生きてきた少女が変わっていくのは、想像以上に一筋縄でいかず困難。それでも、自分を見つめ直すことに決め、過去と向かい合う。辛過ぎるから記憶の底に追いやっている過去を、拾い上げていく作業は血が滴るほどの心の痛みを伴い、読んでいてもとても苦しい。
「贖罪とは、誠実に生きて死ぬこと以外にない」という齋藤の言葉。
最初は綺麗ごとに聞こえてしっくりこなかったが、少女の途方もなく続く葛藤の道程の先には、腹落ちするものがあった。
 この少女がこれからどのように生きていくのが知りたくて、まだまだ続きを読んでいたかった。物語が終わってしまって寂しく感じた一冊。黒澤作品は「自分は生きていていいのか?」と思い詰めながら生きていく人の心情が詳細に描かれる。そこに全く共感できないと、ただただ苦しい思いの吐露が疎ましいかもしれない。
自分の存在を面倒くさいと思われた人。「みんなと同じになれない」「迷惑ばかりかける」そういった自分の存在の危うさを感じたことのある人にはとても響く、響き過ぎて刺さる作品だと思う。

現在(2024年8月)『人間に向いてない』は、Kindle Unlimited 読み放題対象商品です。
読み放題対象期間が過ぎていることもあります。ご了承ください。

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