著者:今村 夏子
1980年2月20日、広島県広島市安佐南区生まれ生まれ。
大阪市内の大学を卒業後、アルバイトを転々とする。摂食障害を患っていたため、人と食事をすることが辛く、誰とも関わらなくてよさそうな絵本作家、漫画家になりたいと思う。ホテルの客室清掃のアルバイトは長く続き、人と関わる楽しさを知るが、客室稼働率の都合上、「明日休んでください」と言われた際に、自分は必要とされていない、皆に疎まれていると必要以上にショックを受ける。そして、再び誰とも関わらない仕事をしようと思い、作家になろうと小説を書き始める。
2013年に結婚し、大阪市内で夫と娘と3人暮らし
- 2010年「あたらしい娘」:第26回太宰治賞を受賞
- 2011年「こちらあみ子」:第24回三島由紀夫賞受賞
- 2016年「あひる」:第5回河合隼雄物語賞受賞
- 2017年「星の子」:第39回野間文芸新人賞受賞
- 2019年「むらさきのスカートの女」:第161回芥川賞を受賞
あらすじ
近所に住む「むらさきのスカートの女」と呼ばれる女性が気になって仕方のない〈わたし〉は、彼女と「ともだち」になるために、自分と同じ職場で彼女が働きだすよう誘導する。
【公式】今村夏子『むらさきのスカートの女』文庫発売
感想
うちの近所に「むらさきのスカートの女」と呼ばれている人がいる。いつもむらさき色のスカートを穿いているのでそう呼ばれているのだ。
「むらさきのスカートの女」
上記文章で始まるこの作品。「わたし(語り手)」が「むらさきのスカートの女」についての説明が延々と始まる。そして、「むらさきのスカートの女」は姉に似ている。いや、違うオリンピックで銅メダルを獲ったフィギュアスケートの選手に似ている。やっぱり違う、小学校時代の友達めいちゃんに似ている…..とよくわからない。結局「わたし」は「むらさきのスカートの女」と友達になりたいということらしい。「わたし」は「むらさきのスカートの女」の家も調査済みだし、いつ、どこで、どの程度の期間働いていたかをずっと記録している。このあたりで「むらさきのスカートの女」より「わたし」の「変さ」に注目せずにはいられない。こんなに「むらさきのスカートの女」について調べている人っていったい、どんな生活していて、どんな人だろうと思い始める。しかし、「わたし」は自分についての説明は限りなく少ない。注意していないと見逃しそうになるほど。そして、「わたし」の計画通り、「むらさきのスカートの女」が自分と同じ職場で働くようになる。「わたし」の説明によって「むらさきのスカートの女」はさぞかし「変な女」と思わされていたが、彼女は意外にも社交的であり、仕事もできる。その後も「わたし」の「むらさきのスカートの女」への観察はさらに続いていく…..
この小説は「わたし」の純度の高い「変さ」に魅力があると思う。その「わたし」から見た世界しか存在しない。そして、読者はその世界に引きずりこまれてしまうが、「わたし」がどんどん信用できなくなっていく。何か信用できるものがないかと探したくなるが、最後にまた「わたし」が一層わからなくなって終わってしまう。
この本を読むのには、次の日、朝早い夜などという時はおすすめしない。どんどん読み進めて、つい一気読みしてしまうし、読み終わって「これってどういうことだったんだろう?」とあれこれ考えて眠れなくなってしまいそうだから。
私は、最初「わたし」と「むらさきのスカートの女」は同一人物だった?と思ったが、作者の方はそのような意図はしていないとのこと。「わたし」の話のどの部分が本当か?嘘か?という推理小説的に読んでも楽しめると思う。
文学賞受賞作品でも難しい言い回しなどはなく非常に読みやすい。「コンビニ人間」などが好きな人にはおすすめ。