小説『護られなかった者たちへ』 中山七里(著)

【PR】本ページはプロモーションが含まれています

不可解な連続殺人の動機があまりにも辛く胸が抉られる社会派ミステリー

  • 著者:中山七里
  • 発行年:2018年
  • 2021年 佐藤健主演で映画化

あらすじ

 仙台市の福祉保健事務所課長・三雲忠勝が、手足や口の自由を奪われた状態の餓死死体で発見された。三雲は公私ともに人格者として知られ怨恨が理由とは考えにくい。一方、物盗りによる犯行の可能性も低く、捜査は暗礁に乗り上げる。三雲の死体発見から遡ること数日、一人の模範囚が出所していた。男は過去に起きたある出来事の関係者を追っている。男の目的は何か?なぜ、三雲はこんな無残な殺され方をしたのか?罪と罰、正義が交錯した先に導き出されるのは、切なすぎる真実―。

読書メーター

感想

 kindle unlimitedで読みました。初めての著者でなんとなくタイトルが気になったので。
こちらは胸が抉られる系。東野圭吾著「さまよう刃」「手紙」のような心がヒリヒリして胸が痛くなるような作品。

 貧困・生活保護がテーマになっている。低賃金で働くよりは生活保護を貰うほうが楽だからと働けるのに働かず不正受給をする人々がいる一方で生活に本当に困窮しているのに、他人に迷惑をかけるのは申し訳ない、恥ずかしいといる理由で申請を躊躇する人たち。その辺りの矛盾が深く詳細に描かれている。生活保護申請の窓口の水際対策。この物語に登場する水際対策の対応はただ上の人の方針に従っただけなのか?それとも悪意があったのか?人の命を紙切れみたいに扱う、その冷酷さはどこからくるものなのか?

 みすみす再犯するような囚人を養うのも、声の小さな貧者に出し渋るのも同じ税金だ。法律と歪んだ信条が護るに値しない者を護り、護らなければならない者を見て見ぬふりをしている。

護られなかった者たちへ

 ここにはもうひとつ貧しくても、血がつながっていなくても、本当に温かい家族のような絆が描かれる。その大切な人をどうしても救えなかったその無念さが痛いくらい伝わってきて苦しくなる。その喪失感、前科者で真面目に働いても貧しく全然楽にならない毎日。そんな中でも救いはあるのかもしれない。

 世の中の全員が全員、前科者には冷たいと思ったか?どうせ更生なんかしないと色眼鏡で見ていると思ったか?お前の方こそ世間を色眼鏡で見ている。いつだって、どこだって、自分の見たものだけを信じようとする人間がいるんだ。

護られなかった者たちへ

 最後のSNSのメッセージが心に響く。

 『護られなかった者たちへ。どうか声を上げてください。恥を忍んでおらず、肉親に、近隣に、可能な環境であればネットに向かって辛さを吐き出してください。何もすることがなくて部屋に閉じ籠っていると自分がこの世に一人ぼっちでいるような気になります。でも、それは間違いです。この世は思うよりも広く、あなたのことを気にかけてくれる人が必ず存在します。わたしも、そういう人たちに救われて一人だから断言できます。
 あなたは決して一人ぼっちではありません。もう一度、いや何度でも勇気を持って声を上げてください。不埒な者があげる声よりも、もっと大きく、もっと図太く』

護られなかった者たちへ

 今まで深く考えたことのなかった事を考えさせられる読書の醍醐味が味わえる作品。ミステリーとしても勘のいい人なら犯人がわかるかもしれないけど、私は「えっ」というか「あぁ」と思わされた。必ず再読をおすすめする。犯人が誰かということを気に囚われず読み進めると各登場人物の想いが一層深く感じられて一層心に響いてくる。

Kindle Unlimited 読み放題期間が終了している場合もあります。ご了承ください。