小説『分身』 東野圭吾(著)

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最先端医療と人間のエゴが組み合わさった時、その恐ろしさと悲劇を描く

  • 著者:東野圭吾
  • 発行年:1993年
  • 2012年にWOWOWの連続ドラマでテレビドラマ化。長澤まさみが一人二役に挑戦。

あらすじ

 北海道で何の不自由もなく育った女子大生の氏家鞠子。自分の顔は母親に全く似ていないことを気にしていて、そのせいなのか、母親に愛されていないのではないかということを子供の頃からずっと悩み続けていた。鞠子が中学生の時に、母親は自宅の火事で不審な死を遂げる。一方、東京で暮らす小林双葉は看護師の母親と二人暮らし。アマチュアバンドのボーカルでオーディションに勝ち残り、TV出演することになる。母親から激しく反対されていたにもかかわらず、TV出演をしてしまう。その直後、母親がひき逃げ事故に遭い死亡。そして、双葉のTV出演によって鞠子と双葉の顔がそっくりであることが判明する。  鞠子と双葉がそれぞれ自分の母親の死に疑問を持ち、鞠子は東京へ、双葉は北海道でそれぞれ調査し、少しずつ真実が見えてくる。

感想

 鞠子と双葉のの章が交互に描かれて物語が進んでいく。顔はそっくりでも二人のキャラクターはかなり異なる。鞠子は真面目で大人しく、「赤毛のアン」が愛読書。双葉は比較的、気が強くバンド活動に熱心でボーカルを務めている。東野圭吾作品で二人がそっくりということはおおよその想像はつくけれど、どういう経緯でそんなことになったのか?…という謎が少しずつわかるほどに面白くなっていく。先がどんどん知りたくて読むのを止められない。
 強力な権力を持つ者と現代医学、その医学に携わる物がその高度な技術を自分の倒錯したエゴに使用した結果の怖さ。そういった危険性を考えさせられる。そして、それぞれがそれぞれの立場で悩み、苦しみ、自らの罪を悔やんでいる。その結果である存在の二人は自分の存在意義すら疑い、また苦しむ。二人がどのような状況でどんなふうに対面するのか…..
 だいぶ盛り上がった末のラストがちょっとあっさり過ぎるような気もするけど、清々しい、美しいシーンで希望を感じられる。その後は読者それぞれ想像して余韻を楽しめばいいのかもしれない。

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