著者:黒澤 いづみ
福岡県出身。本作で第57回メフィスト賞を受賞し、デビュー。
引用元:講談社BOOK倶楽部
あらすじ
ある日突然発症し、一夜のうちに人間を異形の姿へと変貌させる病「異形性変異症候群」。政府はこの病に罹患した者を法的に死亡したものとして扱い、人権の一切を適用外とすることを決めた。十代から二十代の若者、なかでも社会的に弱い立場の人たちばかりに発症する病が蔓延する日本で、異形の「虫」に変わり果てた息子を持つ一人の母親がいた。あなたの子どもが虫になったら。それでも子どもを愛せますか? メフィスト賞受賞作!
引用元:Amazon
感想
またまたKindleUnlimitedですごい小説に出会ってしまった。
「面白ければ何でもあり」というメフィスト賞。引きこもりの息子の部屋に久しぶりに訪れると、息子はなんとも気持ち悪い虫に変貌していた・・・という驚きの設定で始まっていく。カフカっぽい設定と思いつつ読み進めると、「異形性変異症候群」という奇病が各地で広がっているという。虫だけでなく、動物型、植物型、魚型などなどいろいろな異形の種類がある。どの異形も描写を読みながら頭で想像すると、ホラー映画に登場するどんなクリーチャーより気持ちが悪い。特にぞっとするのが、どんな異形でも部分的に本人の部位が残っているところ。指とか目とか手足とか。。。
醜く変わり果て意思疎通もできない子供。そんな状況下で親たちは、常識とか見栄とかひとつずつ剝ぎ取られ、その本性をあらわにしていく。嫌というほど人間の残酷さや醜さを見せつけられるが、「自分だったらどうするか?」を考えるとただ一方的に責める気には到底なれない。愛情とか憎しみとか寂しさとか諦めとかいろいろな感情が複雑に絡み合うなかで、最終的に残る大切なものは何か・・・を教えられた気がする。どんなに安定した暮らしを目指しても、一寸先は闇という不安定な世界に生かされているということを痛感する。
気持ち悪くても読んでいくと力強い感動が待っている。日々の暮らしの中で知らぬ間に育っていた「普通」という価値観を揺るがす力をもつ作品。