直木賞候補作 おすすめ短編小説『スモールワールズ』一穂 ミチ(著)

【PR】本ページはプロモーションが含まれています

著者:一穂ミチ (いちほ・みち)

大阪在住。2007年『雪よ林檎の香のごとく』でデビュー。劇場版アニメ化もされた『イエスかノーか半分か』など、BL作品を中心に執筆。2021年、一般文芸作品としては自身初となる単行本『スモールワールズ』で、吉川英治文学新人賞を受賞。同作が本屋大賞第3位、直木賞候補作に選ばれるなど話題を呼ぶ。

引用元:好所好日

作品紹介

2022年本屋大賞第3位 
第43回吉川英治文学新人賞受賞!
共感と絶賛の声をあつめた宝物のような1冊。

夫婦、親子、姉弟、先輩と後輩、知り合うはずのなかった他人ーー書下ろし掌編を加えた、七つの「小さな世界」。生きてゆくなかで抱える小さな喜び、もどかしさ、苛立ち、諦めや希望を丹念に掬い集めて紡がれた物語が、読む者の心の揺らぎにも静かに寄り添ってゆく。吉川英治文学新人賞受賞、珠玉の短編集。

ままならない、けれど愛おしい
「小さな世界」たち。

引用元:講談社BOOK倶楽部

感想

 『光のとこにいてね』を読んで一穂ミチさんの文章が大好きになったので、『スモールワールズ』もずっと気になっていた。本屋さんで文庫本を見つけたので購入。何度も読み返したくなるような本だったので、電子書籍で買おうか悩んだけど、紙にして正解。短編より長編で埋没感を味わいながら読書したい私は、短編小説は敬遠しがち。物語の設定や登場人物に慣れてきたあたりで、スパッと終わってしまうと物足りなさを感じてしまう。けれど、この本ではどの物語でも濃厚な読書体験ができて大満足。どの作品もそれぞれ全く違う世界で予想もつかないような展開。解説で辻村美月さんが「一筋縄でいかない。」と表現されていたけれど、まさにそういう物語ばかり。
 この本の可愛らしい表紙から、心温まるストーリーが宝物のように集められた一冊。。。と思いながら読み始めると最初の「ネオンテトラ」から大きく裏切られる。イヤミス的な後味悪いものから、心が痛くなったり、温かくなったり、冷たくなったり。一冊でこんなに様々な角度から、心を大きく揺さぶられる本はなかなか出会えない。そういった意味では、まさに宝物のような一冊。ほのぼのできる心温まるストーリーでは、決して届かない心の奥底に潜んでいる傷に強く訴えてくるような力がある。あまりに無防備に読み始めると拒絶反応を起こしてしまいそう。
 どれも好きで何度読み返したいけれど、一番印象に残ったのは「花うた」。往復書簡形式で、まず差出人の名前から「どういう関係なのか?」って疑問が湧く。読み進めるとその驚きの関係性が判明し、またどんどん驚きの展開が広がってゆく。読んでいる間、心をギュッと掴まれているような泣きたい気分だった。特に同じ立場になったこともなく共感できるわけでもないのに、心に大出血を負いながらのヒリヒリする言葉のやりとりから、長い時間をかけながらお互い変化していく様子はあまりにも感動的。ちょっと「アルジャーノンに花束を」的な感じもする。

 一穂ミチさんは、恋愛でも友情でもない何とも名付けようのない、けれど、その人にとっては大切で救われるという人間関係の表現がうまい。(まさに『光のとこにいてね』はそいうった長編小説)そして、どんな立場の人でも決して断罪せずに、理解する余地を残す温かな視線が必ずある。一穂ミチさんの文章に触れていると、知らず知らず社会生活を送るうえで必要とされているらしい「常識」に自らがんじがらめに縛り付けていることに気付き、そっとゆるめてあげることができる。ちょっと楽に呼吸ができるようになって、視界が少し広がるような、心地よい解放感がに包まれる。
 一穂ミチさん作品に触れてみたいかたは、まずは、無料で読める『回転晩餐会』がおすすめ。


スモールワールズ刊行記念〈特別ショートストーリー〉「回転晩餐会」