著者:一穂ミチ (いちほ・みち)
大阪在住。2007年『雪よ林檎の香のごとく』でデビュー。劇場版アニメ化もされた『イエスかノーか半分か』など、BL作品を中心に執筆。2021年、一般文芸作品としては自身初となる単行本『スモールワールズ』で、吉川英治文学新人賞を受賞。同作が本屋大賞第3位、直木賞候補作に選ばれるなど話題を呼ぶ。
引用元:好所好日
あらすじ
――ほんの数回会った彼女が、人生の全部だった――
引用元:Amazon
古びた団地の片隅で、彼女と出会った。彼女と私は、なにもかもが違った。着るものも食べるものも住む世界も。でもなぜか、彼女が笑うと、私も笑顔になれた。彼女が泣くと、私も悲しくなった。
彼女に惹かれたその日から、残酷な現実も平気だと思えた。ずっと一緒にはいられないと分かっていながら、一瞬の幸せが、永遠となることを祈った。
どうして彼女しかダメなんだろう。どうして彼女とじゃないと、私は幸せじゃないんだろう……。
――二人が出会った、たった一つの運命
切なくも美しい、四半世紀の物語――
感想
Kindle Unlimited 読み放題対象作品(2024年6月現在)になっていて、タイトルに惹かれて選んだ作品。女性の友情ものか…と早合点してスルーしなくてよかった。こういった全く知らなかった魅力的な作品に出会えるのがKindle Unlimitedのよいところ。本屋さんでは目に入らないかもしれない。
裕福な家に育つ結珠(ゆず)と、シングルマザーの母野の元で団地に暮らす果遠(かのん)の出会いと別れを、四半世紀に渡って描かれたストーリー。
第一章 羽のところ(7歳)
第二章 雨のところ(15歳)
第三章 光のところ(29歳)
結珠(ゆず)と果遠(かのん)の交互にの視点で語られていて、場面の切り替わりも少なく、不思議な魅力に導かれ、すらすらと読むことができた。
「ただただ、好きで大切」という友情とか恋人とかカテゴライズできない二人の関係。お互いを純粋に思いやるひたむきな姿には、何度も何度も心打たれる。
読後は、清々しい解放感と終わってしまった寂しさが残った。それほど結珠(ゆず)と果遠(かのん)という登場人物に愛着を感じた。第一章の7歳の二人にまた会いたくなってしまい、すぐに再読したら、幼かった二人が懐かしく一層愛おしい。時計の読み方を教える場面が好き。
どんな人がどんな時に読んでも、「人を好きになる」ということを素直に自由に考えたくなる作品。Kindle Unlimitedに こんな素敵な本を紹介してくれてありがとう!という気持ちになった。
同じ一穂ミチさんの作品で、やはり本屋大賞候補作の「スモールワールズ」も読んでみたい。「スモールワールズ」刊行記念で「回転晩餐会」という素敵なショートストーリーが無料で読めるので、一穂ミチさんの文章に一度触れてみたい方にはおすすめ。
物語の中に重要アイテムとして「バター入りココア」というものが登場する。なんだか印象に残り試してみたくなった。
スモールワールズ刊行記念〈特別ショートストーリー〉「回転晩餐会」