原題 | Chronic |
監督 | ミシェル・フランコ |
出演 | ティム・ロス、サラ・サザーランド、ロビン・バートレット、マイケル・クリストファー |
上映時間 | 94分 |
製作国 | メキシコ・フランス合作 |
製作年 | 2015年 |
ジャンル | ドラマ(68回カンヌ国際映画祭で脚本賞を受賞) |
あらすじ
終末期の患者をケアする看護師デヴィッド(ティム・ロス)。彼の日常は看護の仕事とエクササイズ。ひっそりと孤独に暮らしている。 彼の看護は、非常に献身的で、それが傍目には過剰に映ることも。ある患者の家族からセクハラで訴えられ、職を失ってしまう。そんな中、デヴィッドは離れて暮らす娘ナディアと久々に再会し、亡くなった息子のことを思い出し涙する。やがてデヴィッドは、末期ガンに侵された中年女性マーサ(ロビン・バートレット)を担当することに なる。最初はデヴィッド怪しんでいたマーサも、彼の献身的な態度に徐々に心を許してゆく。 しかし、化学療法の副作用に苦しんでいたマーサは、デヴィッドに「あるお願い」をする。果たしてデヴィッドはどうするのか?
感想
序盤のデヴィッドがやせ衰え、弱りきっている女性の体を洗っているシーンが印象的。会話もなく黙々と体の洗うデヴィッドとなすがまま身を委ねている患者。最初、男性看護師が女性の体の隅々までを洗っているのに違和感があった。けれど、観ていくうちに、デヴィッドの献身的な看護で患者自身が信頼しきっていているのだとわかってくる。間もなくその患者が亡くなり、また別の患者のところへ看護に行く。。。
とてもとても静かで無駄なものが一切ない映画。それでも、暇に感じないのは、ティム・ロス演じるデヴィッドの微妙な怪しさ。彼の看護は、気配りに溢れていて、患者の家族以上に患者を思いやる。でも、その献身的すぎる態度は、観ている者を不安にさせる。そして、見ず知らずの人に対して不思議な嘘を平然とつくところも怪しい。デヴィッドは、患者には優しい表情を見せるが、いつも淡々と仕事をこなし、淡々と走って汗を流す。
本当のデヴィッドは一体何を考え、何を感じているのかは、図り知ることができない。唯一デヴィッドの本当の姿を垣間見れたのは、久しぶりに会った娘との会話。過去に息子を亡くし辛いと涙するシーン。
末期患者のマーサとのシーンは、いろいろな意味で生々しく、気持ちががズーンと重くなるようなものだった。そのマーサも亡くなり、次に受け持ったのは、16歳の車椅子の青年。この後どうなるんだろうと思っていると衝撃のラスト。そして、無音でエンドロールが流れる。あまりの展開に心臓ははドキドキするし、頭が真っ白になる。えっ何が起きたの?噓でしょ?という感じ。沈黙の中、流れるエンドロールを観ていると、心がスーンと冷えていくような気がする。
普通、何かを表現したいのなら、少々説明したりしたくなるだろうと想像するけど、全くもってその気無し。その潔さに感心してしまう。何を感じるかは、観客に全て委ねますということなのだろう。観終わってもかなり引きずって、いろいろ想像したり、考えたくなる作品。人それぞれだと思うけど、原題の「Chronic」=慢性 は、ひとつの大きなキーなのかと思う。
ハートウォーミングな映画がお好みの方にはおすすめできない(逆に冷える)。でも、このラストの衝撃は、他の映画では味わえない体験ができるので、是非観ていただきたい作品。