著者:道尾秀介
1975年、東京都出身。2004年『背の眼』でホラーサスペンス大賞特別賞を受賞し、作家としてデビュー。2007年『シャドウ』で本格ミステリ大賞、2009年『カラスの親指』で日本推理作家協会賞を受賞。2010年『龍神の雨』で大藪春彦賞、『光媒の花』で山本周五郎賞を受賞する。2011年『月と蟹』で直木賞を受賞。『向日葵の咲かない夏』(新潮文庫版)はミリオンセラーに。独特の世界観で小説表現の可能性を追求し、ジャンルを超越した作品を次々に発表している。近著に『貘の檻』『満月の泥枕』『風神の手』『スケルトン・キー』『いけない』『カエルの小指』などの作品がある。
新潮社
あらすじ
僕に近づいてはいけない。 あなたを殺してしまうから。
週刊誌記者のスクープ獲得の手伝いをしている僕、坂木錠也。この仕事を選んだのは、スリルのある環境に身を置いて心拍数を高めることで、“もう一人の僕”にならずにすむからだ。
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昔、児童養護施設<青光園>でともに育ったひかりさんが教えてくれた。僕のような人間を、サイコパスと言うらしい。
ある日、<青光園>の仲間の“うどん”から電話がかかって来て、平穏な日常が変わり始めた。これまで必死に守ってきた平穏が、壊れてしまう――。
感想
Kindle Unlimitedで読むことができた。道尾秀介さんの本は、『向日葵の咲かない夏』に続いて2冊目。
読み始めて、全てにおいて冷めている様子の主人公、坂木錠也にまず興味を持った。そして、すぐにその理由がわかる。それは「サイコパス」。
発汗の度合いが低いこと。心拍数が低く、緊張時や興奮時にも心拍数の増加がみられないこと。この心拍数と反社会的な行動の関係性は医学的に、たとえば喫煙と肺癌の関係性よりもはるかに高いこと。一説によると、心拍数が低い状態では身体が最適な覚醒度まで到達せず、そこに到達しようと、無意識のうちに反社会的行動という制度を求めるといわれていること。
『スケルトン・キー』道尾 秀介 (著)
サイコパスに発汗が少なく、心拍数が低いという特徴があるなんて驚きだった。そして、恐怖や共感を感じる度合いが低い。けれど、歴史的な成功者などにはサイコパスが多くいるらしい。心の痛みを感じないため、余計な感情を挟まず決断できる。そういった特徴を生かし、爆発物の解体する専門家や大手術を成功させる医者などになっている人もいるという。こういった物語に関わりのあることで、おもしろくて引き込まれてしまう知識がちりばめられている。もうひとつおもしろかったのが、脳の働きについて説明するための絵がでてくる。
「人間が誰かの顔を見たとき、真っ先に働くのは右脳なの。右脳に入ってくるのは、左目からの情報。つまり相手の表情の中で、左目の視野に入った部分が優先的に読み取られることになる。だから、向かって左側がほほえんでいるAのほうが、より幸せそうに見えるの」
『スケルトン・キー』道尾 秀介 (著)
物語もスピーディーに展開していくので飽きることなく読み進められる。途中「え?!」っと驚きも用意されているし。後半、ちょっとサイコパス多すぎ…..感はあったけれど。
最初は、おそろしく冷たく感じる錠也だが、サイコパスである自分について、何とか自分の狂気を抑えようとしている姿は健気に思えてくる。残酷シーンも多く、冷酷な登場人物が多いストーリーの中でも、人の温かさを感じるような終わり方は感動的だった。サイコパスの細やかな心情が楽しめるおススメの1冊。この本読んで周囲の人たちを「この人サイコパスかな?」などと思ってしまうようになった。
解説は、脳科学者の中野信子さん。こちらの解説もただの解説ではない読み応え十分でとってもおもしろかった。
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