小説『fishy』金原ひとみ(著)

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著者:金原ひとみ

1983年生れ。2003年、『蛇にピアス』で第27回すばる文学賞を受賞。2004年、同作で第130回芥川龍之介賞を受賞。2010年、『トリップ・トラップ』で第27回織田作之助賞を受賞。2012年、『マザーズ』で第22回Bunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞。2020年、『アタラクシア』で第5回渡辺淳一文学賞を受賞。その他の著書に『アッシュベイビー』『AMEBIC』『ハイドラ』『マリアージュ・マリアージュ』『持たざる者』『軽薄』『クラウドガール』『パリの砂漠、東京の蜃気楼』など。

新潮社

あらすじ

生きづらさを抱えながらも“いま”を愉しむ女たち
不倫の代償、夫の裏切り、虚ろな生活――
あらゆる幻想を塗り替える女性をめぐる本当の関係

結婚したばかりの男に思いを寄せる作家志望の美玖。編集者の弓子は不倫する夫を監視しながら自尊心を守ることに必死だ。インテリアデザイナーのユリは仕事も家庭も充実しているように見えるが、本当の生活が見通せない。女たちの新たなつながりを描く物語。

朝日新聞出版

感想

  金原ひとみさんの小説は初めて読んだ。本屋さんでぶらぶらしている時にたまたま目に止まり購入した本。帯にあった「生きづらさを抱えながらも”いま”を楽しむ女たち」の言葉に惹かれて…..。

 「fishy」とは「(匂い・味などが)魚のような」、「魚臭い」、「胡散臭い」、「いんちきくさい」などの意味とのこと。女性のヒリヒリするような感情と切羽詰まった欲望が容赦なく迫ってきて、切なくなるような息苦しくなるような小説だった。

 女3人のコリドー街での居酒屋から始まる。女子会の話?ちょっと失敗だったかなぁと思いながら最初読んでいた。作家志望のライター美玖28歳、女性誌の編集をつづける弓子37歳、インテリアデザイナーのユリ32歳。この3人の一人称でそれぞれ語られていく。まず、美玖のエピソードで始まり、近況を二人に報告する。美玖は、ズケズケ言うユリより美玖に気を使ってくれている弓子について心の中で辛辣な批判をして「やっぱりは私は、弓子のことが嫌いなのだ」で終わる。「へぇー。おもしろーい。」というかんじになり、最初につまらないんじゃないかというのが吹っ飛んで、どんどん3人の物語に惹かれていった。次は弓子が夫の不倫疑惑について報告。するとユリは弓子の考え方や感じ方を激しく批判。そして弓子は「ユリのように人の気持ちを察することのできない人は、やっぱり苦手だ。」と思う。ユリはユリで批判している自分についてこう思う。

私もよく分からないのだ。どうして自分がこういう思考回路で生きているのか。どうして人に嫌がられる性質を持ち、その性質を捨てられないのか。普通に人に好かれたいし、普通に人に認められたい。なのに普通に人に嫌われ、普通に引かれる人生を送ってきた。

「fishy」金原ひとみ episode 0 fshy

 この3人は全く似ていない。そして女性が好きと言われている「共感」がないところがおもしろい。別格なのがユリだ。美玖と弓子はある程度、常識的だし常識をそれほど疑ってもいない。ユリは常識的なもの否定しつつ、とても生きにくそう。彼女の鋭いつっこみは説得力がある。けれど、嫌われるのを承知でそこまで言う姿は、不思議でユリに一番惹かれてしまった。裏表がなく公私ともにだだ漏れと思われていたユリが、実は一番ミステリアスで本当の姿が知りたくなっていく。そんなユリを美玖は嫌悪しつつ羨ましく思う。

今の時代空気を読めない読まないはもはや武器だ。皆が人の反応や態度にビクビクし一億総コミュ障、コミュ障超大国となった日本に於いて、空気を読めない奴というのは強者なのだ。

「fishy」金原ひとみ episode 1 red bully

 一番、印象に残っているのは、夫が浮気相手の女のところへ行ってしまい、離婚請求をされている弓子が「ざまあみろ」と大声で叫び、号泣する場面。常識的な弓子が叫んだ理由は、知人女性が流産したというメールを読んで。そう思ってしまうほどに追い詰められてギリギリな人の感情が伝わりずしーんと心にきた。

 3人の中に「共感」はないけど、読者は、誰かにあるいは部分的に共感してしまうと思う。そして、「共感」のない3人の関係が羨ましくなるかもしれない。
 3人のこじらせていた人生が一旦、踊り場にでたようなかんじのラストで、読み終わってしまうのが少し寂しくなる本だった。3人の感情のひだに触れて、自分の無自覚な感情を感じてしまうような作品。